モフモフ社長の矛盾メモ

ヒゲとメガネとパンダと矛盾を愛するアーガイル社のモフモフ社長が神楽坂から愛をこめて走り書きする気まぐれメモランダム

朝生での落合陽一氏の発言とAI(人工知能)が生む暖かみについて

朝まで生テレビのAI(人工知能)の回は、開始後30分から観はじめて、終わりまで観てしまった。出演者の多くはAIのスペシャリストというより評論家寄りだし(個人的にはshi3z氏にも参加して欲しかった)、テーマを逸脱した議論も多かったが(これは毎回だけど)、総じて面白かった。

朝まで生テレビ!|テレビ朝日


この回の落合陽一氏の発言に関するツイートが、週末に賛否両論を巻き起こしていた。

落合陽一「要介護者にウォシュレットとおっさんにケツ拭いてもらうのどっちがいいか質問したらウォシュレットって答える」 #朝生 〜激論!"AI社会"と日本〜での話がわかりやすかった - Togetter

 
リプライやTogetter、はてなブックマークコメントを見る限り、賛成意見の多くは『やっぱり落合陽一氏はスゲェ!』だったし、否定意見の多くは『落合信者乙』または『問題のすり替えだろ!』だった。そして、そのどちらの意見も(特に否定派の)、大半は朝生の放映を見ていないことが明白だった(記事タイトルだけを読んで脊髄反射のブクマコメントをつける人が多いように)。このままだと不毛な議論になりそうだったので、下記のブコメを投稿したところ、否定的だったコメントの流れが逆転して結果的にトップブコメに選ばれ、コメント欄は落ち着いた(ように見えた)。

落合陽一「要介護者にウォシュレットとおっさんにケツ拭いてもらうのどっちがいいか質問したらウォシュレットって答える」 #朝生 〜激論!"AI社会"と日本〜での話がわかりやすかった - Togetter

この回の朝生はずっと見てたけど、文脈的にこの発言は適切だったよ。AIは暖かみがない、みたいな理由で、AIは人類を不幸にすると思う人が5割、みたいな視聴者の声についての反応で出た例え話だから。

2018/09/02 12:29 


しかし、100文字のコメントでは語りつくせなかったので、このブログを書いている。これは朝生のレポート記事や落合陽一論ではなく、前述の発言を聞いた自分が思ったことの表明である。

 

ここから本題。


機械学習にあまり詳しくない人が『AIで介護を変える』と聞くと、人間の介護士の代わりに働く機械的で冷たいロボット介護士の姿を想像してしまう。

本来、AIとは概念と技術とそれに基づくシステムのことであり、明確な形状を持たないものだから、専門家以外は具体的なイメージを想像しづらい。すると、どうしてもAI=ロボットというわかりやすい形を当てはめてイメージしたくなるが、これは仕方がないことだ。シンギュラリティの議論が(ロボットが人類に反旗を翻す恐怖とやらで)平行線をたどるのも、これがひとつの要因だと思っている。

確かに、実作業やデータ集めのためには人工知能の身体としてのロボットが必要だ。しかし、AI技術のもたらす恩恵は、当然ながら汎用ロボットだけではない。番組内の視聴者アンケート『AIは人類に幸福をもたらすと思うか?』では、『AIが信じられない』『AIには暖かみがない』などの理由で『幸福をもたらさない』という回答が約半数を占めていたが、AI=汎用ロボットという誤解がまず大きな原因のひとつだと思う。


そもそも、落合陽一氏が前述のウォシュレットのたとえで伝えたかったのは、何だろうか。自分は「視聴者アンケートに出て来た『AIは冷たい、人の手でやるべき』なんて意見は想像力不足だし、AIの活用も程度の問題である」ということではないか、と思った。

 

今日、さまざまな電子機械には、データの統計分析や機械学習の成果が取り入れられている。例えば、電子体温計が数秒でほぼ正しい体温が計測できるようになったのも、広い意味での機械学習の成果だ。では、数秒で測れる電子体温計は冷たくて、10分間脇に挟み続ける水銀の体温計は暖かみがあるのだろうか? そもそもその「暖かみ」とは、使う道具の問題ではなく、世話をしてくれる人との心の触れ合いによるものではないのだろうか?

体温計のようにシンプルな機械でさえ、技術革新の恩恵は大きい。検温が早ければ病院の待ち時間も短くなるし、空いた工数をサービス向上にも向けられる。一方、介護の現場で本格的に高度な自動化システムを活用するとなると、様々な場面や個人差を考慮した対応が必要になる。その部分にこそ、センシングによるデータ分析と機械学習、そしてロボティクスの研究成果が活きて来るはずだ。

 

汚くて苦しい重労働や、手動に頼っていた繊細な作業が自動化できれば、人間はよりコミュニケーションに集中できるようになる。その結果どうなるか。
アシストアームで重い身体を持ち上げられたり、シモの処理をAI搭載の機械が上手にやってくれるようになれば、それに付き添う介護士という職業に求められる資質も変わる。今までは、ホスピタリティ云々以前に、人を抱きかかえられる力があり、シモの処理にも抵抗がない人、という資質が絶対条件だったが、それが変わるのだ。 

介護士は、辛い作業に長年耐えられる人だけがなるものではなく、重労働は苦手だが老人と接するのが上手でホスピタリティを持った人も選べる職業になる。そうなれば人材不足も解消するし、介護士になる人材の層が厚くなるので良い競争が生まれ、付加価値がある人や優秀な人は給与も上がる。当然、サービスの品質も向上する。機械学習による技術の進化によって、結果的に介護の質も人対人のコミュニケーションによる暖かみも増すのである。


あらゆる職業にAIが導入されて自動化されても、最後に残るニーズは人と人とが触れ合う職務だ。これは番組内でも何度か出て来た話題だ。自分はもともと興味がある分野だったので、落合陽一氏のウォシュレットのたとえから、ここまで想像を膨らませられた。だが、あの場では少々言葉足らずだったし、その部分だけを切り取られて拡散されたら誤解する人も多いだろうなとは思った。

落合陽一氏の活動には今まで個人的に関心を向けていなかったが、少し興味が湧いたので、著書でも読んでみようかと思う。