モフモフ社長の矛盾メモ

ヒゲとメガネとパンダと矛盾を愛するアーガイル社のモフモフ社長が神楽坂から愛をこめて走り書きする気まぐれメモランダム

Twitterは情報インフラとして生き残れるのか

今、創業者のひとり、ジャック・ドーシーがCEOに返り咲き、大胆なサービスと収益構造の改革に乗り出そうとしている「Twitter」について、こんな記事が出ていた。

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「出戻り経営者」という共通点だけでジョブズを持ち出す、この記事タイトルのセンスは微妙だし、Facebookと単純比較をするのも投資家以外には意味が無いと思うが、言わんとすることはわかる。革新的なソーシャルメディアであり、情報インフラであったTwitterへの期待感が、急速にしぼんで行く現状を憂えているのだ。

 

自分は、2010年に国内初のTwitter分析ツールを開発し、Twitterを中心にソーシャルメディアの活用支援をする会社を経営し続けて7年目になる。いちユーザーとして、ビジネスパートナーとして、日々Twitterを見続けて来たので、NewsPicksなどでやいのやいの言われているのに我慢ができなくなって、この記事を書いてみた。

 

まず、大前提として、日本国内におけるTwitterの地位は、かなり盤石だ。FacebookとLINEしか使わず、特定の趣味も持たない30、40代以上の社会人からは、Twitterってまだ流行ってるの? 的な感覚かもしれないが、Twitterは日本国内のアクティブユーザー数で1980万人(2015年10月時点)。(追記:2016年2月18日、初めて公式にTwitterの日本国内アクティブユーザー数が発表された。その数は3500万人。やはり盤石だった。)。10代・20代には圧倒的な利用率だし、主婦層から高齢者層まで男女ほぼ同数で広く分布している(ちなみにFacebookは2400万人)。

みんなが街なかでTwitterについて口に出さなくなったのは、趣味アカウントや愚痴アカウントが上司や家族や知人にバレるのを防ぐためであって、多くのユーザーは複数アカウントを駆使してひそかに使い続けているのだ。Instagram(国内で810万人)の伸びが著しいが、あちらは日常の瞬間を切り取った写真が中心。Twitterは言葉が中心なので、根本的に住み分けられている。

 

さて、それではTwitterならではの良さとは、ソーシャルメディアとして他のサービスとの差別化要因とは、何なのだろう。


結論から言うと、Twitterのコアとなる価値は、以下の3つだ。

  1. 即時性 (時系列順のタイムライン)
  2. 匿名制 (趣味嗜好が開示しやすい)
  3. 透明性 (情報流通インフラの役割)

1. の「即時性」を支えるのは、140文字の投稿制限と、時系列順の表示と、モバイル投稿前提の設計思想だ。リアルタイム性と、気軽な投稿のしやすさを実現している。

140文字制限により、タイムラインの全内容が、詳細クリック不要で「流し見」できることも重要なポイントである。

2. の「匿名制」は、Facebookに比べてターゲティング広告面で不利という意見があった。しかし、Facebookは年齢性別のデモグラ分析は得意だが、本当の趣味嗜好を実名でさらけ出す人が少なく、興味分野の正直な情報は得られない。

一方でTwitterは複数の匿名アカウントをアプリに連携したり、テレビなどを観ながらのダブルスクリーン利用が主流なので、ユーザー個人の趣味嗜好が丸わかりになる。Twitter広告の管理画面を見れば、そのターゲティング精度の高さに驚くはずだ。

3. の「透明性」だが、これは今や失われつつある。

今やTwitterはかつてのRSSのような情報流通インフラとして機能しているが、これは初期サードパーティーへのAPI開放と、トレンドキーワード、リツイート機能によるところが大きい。

しかし、今やAPIの対応が後手後手だったり、公式アプリ以外のアプリを差別したり、Facebookを真似して非時系列のアルゴリズム式フィード表示を検討したりと、Twitterとサービス連携して何が出来るのか、どんなユーザーにどういう形で届くのか、がどんどん不透明になりつつある。

 

まとめると、これら3つの価値を損なわず、さらに強化するUI/UX改善を行えば、Twitterは今後も唯一無二の存在であり続けられるだろう、ということだ。

 

一方、サービス体験の改善だけでなく、収益構造の改革も急務だ。

その鍵は、個人課金……個人的なアイデアとしては「個人がお小遣いで配信できる手軽な広告」なんじゃないかと思っている。例えばうまい大喜利ネタを思いついた時、告知したいイベントがある時、フォロワーを募集したい時などに、たった100〜500円ほど払うだけで、フォロワー以外にも、より多くの人に見てもらえるというブースト課金機能だ。事前に設定しておけば「ブーストボタン」のワンタップで行けるくらいの手軽さが理想だ。承認欲求を課金で満たすという機能だが、上手く行けばソーシャルゲーム並みの廃課金ユーザーが出るくらい、売上が伸びると思っている。

もし、このままTwitterが衰退するようなら、Twitterの次に同じような規模で情報流通インフラを構築する業者は当分出て来ないだろう。GoogleやAmazonのような企業からは、Twitterのように個人データの塊のようなメディアが魅力的に映るだろうが、自前で運営して成功するとは思っていないはずだ。

これは過去の事例から導き出した法則だが、SNS以外の大規模インフラ事業を手掛ける会社が運営するSNSは、ほぼ確実に失敗する。最初は、保有するユーザー数の大きさも手伝ってそれなりのスタートダッシュを切るが、大成功はしない。Appleのping、Google Plus、Amazonや楽天、携帯キャリアの運営するサービスなど、枚挙にいとまがない。つまり、ユーザーはビッグ・マザー的なインフラや個人情報データを司る存在の手の平の上で、個人的なSNSを楽しみたくないわけだ。楽天やAmazonのIDでひも付けて匿名SNSをやるなんて、マイナンバーをTカードにひも付けるようなものだ。だったら、SNS専業の会社や、小規模ベンチャーの手掛けるサービスであってほしい、というのが自然な意見だと思う。

 

一般に、SNSの寿命は数年。その衰退のきっかけは、自分の新しいステータス変化(最新の写真、卒業・就職・転職・引越し・結婚などのステータス変化)を、どのSNSで更新するか、ということに現れる。今、転職先の情報をmixiにアップデートする人も、mixiのアイコンが数年前から変わってないから変えようと思う人も、ほぼいないだろう。アップデートする気がしなくなったSNSは、滅びて行く。その点、TwitterはSNSというより情報インフラであり、ステータスの変化をアップする必要性が高くないので、経年劣化には強いはずなのだ。

情報インフラとしてのTwitterは唯一無二の存在だし、その役割はまだまだこれからなので、ぜひとも透明性を高めつつ頑張って欲しい。

 

サードパーティーとして、Twitterへの一番の要望は、数年間放置されているAPI 1.1のバージョン更新です。せめて、検索結果の過去ログやアンケート機能など、Web版のTwitterと同じ体験を提供できるようにバージョンアップしてください。マジでよろしくお願いします。