モフモフ社長の矛盾メモ

ヒゲとメガネとパンダと矛盾を愛するアーガイル社のモフモフ社長が神楽坂から愛をこめて走り書きする気まぐれメモランダム

【評論】フィロソフィーのダンス『ジョニーウォーカー』に見る、佐藤まりあの”再発明”

2021年10月20日、フィロソフィーのダンスの新曲『ジョニーウォーカー』が発表された。

米国出身の実力派バンドGROOVE ASYLUMがアレンジと演奏を担当したことが話題だが、楽曲派ファンの一人として、この楽曲の聴きどころは、そこだけではないと思っている。

 

『ジョニーウォーカー』の存在意義を一言でいえば、佐藤まりあの "再発明" である。

「フィロソフィーのダンス」という邪道とも言えるほど個性派揃いの4人の中で、正統派のアイドル道を一人征く、まりあんぬこと彼女の歌声の魅力は、残念ながら埋もれてきた。

グループ結成の初期から、底抜けにファンキーな超絶ソウルの申し子:日向ハルと、唯一無二の脳トロボイスシンガー:奥津マリリの、2人の歌唱力・表現力はやはり抜きん出ていた。そこにかつては、素っ頓狂な萌えボイスのおとはすこと十束おとはが色を添えて更にカオスになりかけたところを、まりあんぬの素直な歌声が全体をアイドルの枠に引き戻す調整役をしていたように思う。


思えば、まりあんぬにしか歌えないフレーズは、過去にも多々あった。その代表格が『なんで?』の中の0:35「逃した魚の 水族館」だ(大好きな歌詞である)。

あのパートは彼女にしか歌えない。力強く安定感のあるBメロの入りと言えば、まりあんぬだったのである。とはいえ、歌声の個性や存在感では、他のメンバーに隠れがちなのは否めなかった。


しかし、おとはすが先に変わった。

その片鱗は『シスター』だった。2019年のアルバム版ではない。2020/11/19にYouTubeで公開されたアコースティックバージョンである。

2:20の「昨日の可愛い子は誰? ああそうなの 契約なんて無いし、もう仕方ないことね」のフレーズで、彼女は低音の歌唱力・感情表現ともに他のメンバーの誰にも真似できない領域に到達して見せたのである。


そして、その後の『テレフォニズム』の全編にわたって、おとはすは、唯一無二の存在感を放つ最強のウィスパーボイスの歌い手として、文字通り生まれ変わった。

カヒミカリィ、もりばやしみほ、やくしまるえつこを例に出すまでもなく、ウィスパーボイスは女性シンガーにとって飛び道具と言えるほど超強力な武器、いや兵器である。おとはすは、萌え声、アドリブ感情表現、低音歌唱力に加えて、ウィスパーボイスという超強力な個性を手に入れたのである。


一方で近年、まりあんぬの歌唱力も飛躍的に向上していた。

『ダブル・スタンダード』においても、その伸びやかでアタックの早いハイトーンボイスは、「歌の上手なアイドル」の域を超えて、少しづつシンガーとしての個性を発現させようとしていた。彼女の素直な声のパートやコーラスが無ければ、他のメンバーの個性とアクが強すぎてしまう楽曲も多く、もはや欠かすことのできない役割になっている。しかし、それでもまだ彼女の素直な歌唱は「アイドルグループとしてのアイデンティティに立ち戻る声」であり、個性的なシンガーの歌声とは言えなかった。


そこに来て『ジョニーウォーカー』である。

もはや彼女の役割として定着した低音歌唱力を発揮する0:56おとはすパートに続いて、最初のまりあんぬパート1:06で、度肝を抜かれた。


「擦り寄るように 甘えるように 胸の中まで」。その歌詞の通りに、どこまでも透明で伸びやかなハイトーンからスムーズにファルセットへと移行する、それはこの曲の最大の魅せ場と言ってもいいレベルの歌唱だった。歌声を聴くだけでも、そこだけ時間が止まっているかのように、彼女にスポットライトが当たって見えたのである。


そして2番のBメロ後のCメロ、ハルのソウルが爆発する「足りない Hey Master! もう一杯頂戴」のパート2:25に続く「Oh baby baby! 可愛いHey boy  おままごとじゃない」のまりあんぬパート2:33で完全にノックダウンされてしまった。

これはクロスカウンターだ。直前のハルの剛腕パンチに全く負けていない、ストレートパンチの応酬なのである。こんなにパンチのある、まさに決めゼリフにも似たサビのパンチラインを担える歌い手だとは気づいていなかった。


思えば今までも、まりあんぬパートはどれも歌詞が個性的で独特の世界観だった。それを今までは綺麗な声で素直に歌っていたから、わからなかったのだ。彼女の歌声の持つパンチ力に、この曲で初めて気付かされたのである。そして、これは他のメンバーの誰も持っていない唯一無二の個性である。


ここから、アイドルシンガー佐藤まりあの飛躍が始まることは間違いない。アタックの早い伸びやかなハイトーンボイスはパンチ力を手に入れて、彼女だけの最強の個性となった。

かくして、4人全てが全く異なる強い個性と歌唱力と表現力を手に入れて、文字通り最強のカルテットと化したフィロソフィーのダンス。プロデュース陣は今後も、4人の個性をフルに活用した楽曲をどんどん投入して来るはずである。

ここから先、彼女らがアイドルという表現者として、さらにどこまでの高みに到達するのか、楽曲派ファンの1人として今から楽しみで仕方がない。

 

ジョニーウォーカー

ジョニーウォーカー

  • フィロソフィーのダンス
  • J-Pop
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes